2026年9月27日(日) 中山11R・GⅠ
スプリンターズステークス展望
歴代王者か、新世代か――秋のスプリント王決定戦に揃った16頭
2023年覇者ママコチャ、2024年覇者ルガル、2025年覇者ウインカーネリアン。そこへ勢いに乗るフリッカージャブ、GⅠ2勝の3歳牝馬スターアニス、昨年のNHKマイルCを制したパンジャタワー、キーンランドCを勝ったサウンドモリアーナらが挑む。
過去3年の勝ち馬が揃った一方で、短距離界の勢力図を塗り替えようとする新しい力も充実した今年のスプリンターズS。わずか1分余りの攻防を左右するのは、純粋なスピードだけではない。序盤のポジション争い、下り坂での加速、そして中山名物の急坂。秋最初のGⅠは、世代交代と王者復権が交錯する一戦となりそうだ。
目次
1.今年のスプリンターズSは「王者」と「新勢力」の激突
9月27日、中山競馬場で第60回スプリンターズステークスが行われる。芝1200mで争われる秋のスプリント王決定戦。今年は16頭が出走する。
メンバーを見渡して最初に目を引くのが、過去3年の勝ち馬が揃っていることだ。
2023年のママコチャ、2024年のルガル、そして2025年のウインカーネリアン。今年勝てば、この3頭のいずれかがスプリンターズS2勝目を手にすることになる。
しかし、今年の構図は単純な「歴代王者対決」ではない。
北九州記念からセントウルSまで連勝し、オープンの鞍馬Sを含めれば3連勝中のフリッカージャブ。阪神ジュベナイルフィリーズと今年の桜花賞を制したスターアニス。2025年NHKマイルC覇者パンジャタワー。そして今年のキーンランドCでパンジャタワー、ウインカーネリアンを退けたサウンドモリアーナ。
さらに、昨年のスプリンターズS2着馬ジューンブレア、今年の高松宮記念2着レッドモンレーヴ、重賞5勝のスピード馬ピューロマジック、今年の安田記念2着ワールズエンドまでいる。
実績馬の層は厚い。それでも、絶対的な一頭がいるとは言い切れない。だからこそ今年は、各馬の能力比較以上に「1200mの流れに誰が最もうまく乗れるのか」が重要になる。
2.中山芝1200m――速いだけでは押し切れない舞台
スプリンターズSを考えるうえで、まず押さえておきたいのが中山芝1200mの特殊性だ。
スタート地点は外回りコースの奥。発走直後から下り基調となり、外回り3コーナーも比較的緩やかなため、各馬はスピードを落とさないまま一気に4コーナーへ向かう。そのため前半600mは速くなりやすい。
ところが、直線に入ってから待っているのが高低差2.2mの急坂だ。中山の直線そのものは310mと短い。それでも、序盤から飛ばした馬にとって最後の坂は想像以上に厳しい。
つまり、スタートから速く走ればいいわけではない。
前半でポジションを取るスピード。
高速ラップを追走する持続力。
そして最後の急坂でもう一度踏ん張るパワー。
この三つを高い水準で要求されるのが、中山芝1200mである。特にGⅠとなれば、わずかな位置取りの差がそのまま着順へつながる。
3.最大の焦点は前半600m――今年も激流になるのか
今年の展開を考えると、ポイントになるのは先行争いだろう。
ピューロマジックは現役屈指のスピードを持つ。今年のアイビスサマーダッシュではJRAレコードを更新して連覇。1200mでも速力を前面に押し出す競馬が持ち味で、序盤から存在感を示す可能性が高い。
そこへワールズエンドがいる。今年の京王杯スプリングCを逃げ切り、安田記念でもハナを切ってシックスペンスとクビ差の2着。今回は初めての1200mとなるだけに、マイル戦以上に速い序盤へどう対応するかが焦点になる。
ジューンブレア、ウインカーネリアン、フリッカージャブ、アイサンサンなど、前々で競馬のできる馬も少なくない。
ただし、「逃げたい馬が何頭いるか」だけでハイペースになるとは限らない。重要なのは、それぞれが最初の300mでどれだけポジションを主張するかだ。
序盤から互いに譲らなければ、後半は差し馬の出番が増える。一方で早い段階で隊列が決まれば、前にいる馬が簡単には止まらない。スタートから最初の3コーナーまでの攻防が、今年のスプリンターズS全体を決める可能性がある。
4.フリッカージャブ――3連勝の勢いで一気に頂点へ
勢いという点で最も分かりやすい存在がフリッカージャブだ。
鞍馬S、北九州記念、そして前走セントウルSと3連勝。昨夏以降の7戦で6勝を挙げており、短距離路線へ完全に軌道に乗った印象が強い。
特に価値があるのが前走セントウルSだ。相手には重賞5勝のピューロマジック、2023年スプリンターズS覇者ママコチャがいた。そのメンバーを相手に勝ち切って本番へ進んできたのだから、単なる上がり馬として扱う段階ではない。
今年のオーシャンSでは6着だったものの、勝ち馬との差は0秒3。中山芝1200mをすでに経験していることも大きい。初めて中山の急坂へ挑む馬とは違い、コースそのものへの対応については一定の材料がある。
課題を挙げるなら、今度は「追う側」ではなく「追われる側」に近い立場になることだろう。GⅡまでとGⅠではプレッシャーも相手のレベルも違う。さらにセントウルSから中2週で、夏場から使ってきた疲労がどこまで残っているかも確認したい。
それでも、現在の充実度はメンバーでも目立つ。ここを勝てば4連勝でGⅠ制覇。短距離界の勢力図を一気に塗り替える存在となる。
5.スターアニス――GⅠ2勝馬が1200mへ踏み込む
今年のメンバーで最も異色の存在と言っていいのが3歳牝馬スターアニスだ。
昨年の阪神ジュベナイルフィリーズを制し、今年は桜花賞も勝利。すでにGⅠ2勝という実績を持ちながら、今回は初めて芝1200mへ挑む。
前走は2400mのオークスで12着。そこから一気に距離を半分に短縮するという、非常に大きな条件変更になる。
もっとも、短距離への転向を単なる奇策と見るのも早い。母エピセアロームは2012年セントウルSの勝ち馬で、同年のスプリンターズSでも4着。父ドレフォン自身も米国のBCスプリントを制している。血統背景だけを見れば、むしろ1200mに対応して不思議のない要素を持っている。
さらに3歳牝馬で負担重量54kg。古馬牡馬の58kgと比較すれば4kgの差がある。この斤量差は高速スプリント戦では無視できない。
問題は、マイルや中距離とはまったく違う1200m特有の忙しさだ。序盤から32秒台、33秒台のラップに入ったとき、どの位置で流れに乗れるか。能力そのものより、初めて経験するスプリント戦のリズムへの適応が鍵になる。
実績はすでに一級品。適性が噛み合えば一気に突き抜けても驚けない一方、未知数も大きい。今年のスプリンターズSを最も面白くしている一頭である。
6.パンジャタワーとサウンドモリアーナ――夏から浮上した二頭
別路線から本番へ向かってきた有力勢では、キーンランドC組が見逃せない。
そのキーンランドCを制したのがサウンドモリアーナだ。重賞初制覇だったが、2着パンジャタワー、3着ウインカーネリアンというGⅠ馬2頭を相手に先着。斤量差があったとはいえ、内容には価値がある。
しかも中山ではすでに勝利経験がある。札幌から中山へ舞台は変わるものの、最後に坂のあるコースへ替わること自体を大きなマイナスと考える必要はないだろう。今春までの評価から一段階上へ進んだ可能性を感じさせる。
一方のパンジャタワーは2025年NHKマイルCの勝ち馬で、同年のキーンランドCも制覇。マイルGⅠ馬でありながら1200mの重賞タイトルも持つという、距離適性の幅が強みだ。
今年の高松宮記念では4着。そして前走キーンランドCはサウンドモリアーナの2着。勝ち切れてはいないものの、大きく崩れず上位争いを続けている。
瞬間的なスピードだけを競う形より、最後まで持続力を問われる形ならパンジャタワーの総合力が生きる。中山1200mは今回が初めてだが、マイルGⅠを勝ち、1200m重賞でも結果を残している点は心強い。
7.ウインカーネリアン、ルガル、ママコチャ――歴代王者は健在
今年のレースを語るうえで避けて通れないのが、過去3年の勝ち馬たちだ。
■ ウインカーネリアン
昨年、8歳でスプリンターズSを制覇。今年は9歳となったが、高松宮記念3着、キーンランドC3着と衰えを感じさせない。今回勝てば連覇であると同時に、9歳馬によるJRA平地GⅠ制覇という新たな歴史を刻むことになる。
何より昨年と同じ中山1200mで戦えるのは大きい。スプリント戦では加齢による絶対的なスピード低下が問題になりやすいが、今年の高松宮記念、キーンランドCを見る限り、GⅠ級を相手に戦う力はまだ保っている。
■ ルガル
2024年は骨折明け約6か月という状況からスプリンターズSを制した。能力を出せたときの強さはすでにこの舞台で証明済み。昨年末には阪神Cをコースレコードで勝ち、健在ぶりを示している。
近走成績だけで評価を下げるのは危険なタイプだろう。中山1200mでGⅠを勝った経験は、それだけで大きな材料になる。
■ ママコチャ
2023年の覇者。さらに2024年には同じ中山1200mのオーシャンSも制しており、舞台適性について説明は不要だろう。
前走セントウルSは3着。先行勢が上位を占める流れのなかで追い上げており、7歳になった現在も大きく力が落ちたとは言い切れない。今回は武豊騎手とのコンビ。過去の実績だけでなく、前哨戦からの上積みも含めて注意したい存在だ。
8.ピューロマジックを中心に、先行勢がレースを動かす
今年の展開を握る存在として、ピューロマジックは外せない。
3歳時の葵Sから重賞戦線でスピードを発揮し、現在は重賞5勝。今年のアイビスサマーダッシュではJRAレコードを更新して連覇を達成した。純粋な速力なら今回のメンバーでもトップクラスだ。
前走セントウルSはフリッカージャブの2着。敗れたとはいえ、GⅠを前に力を示すには十分な内容だった。
ただ、スプリンターズSでは過去2回とも8着。速さだけでは押し切れない中山1200mの難しさを経験している。
今回重要なのは、「逃げるかどうか」よりも、どれだけ余力を残して4コーナーへ入れるかだろう。前半で必要以上に競り合えば最後の坂で苦しくなる。一方、自分のリズムでスピードに乗れれば、後続にとって簡単な相手ではない。
そしてピューロマジックが刻むラップは、自身だけでなく後ろにいる全馬のレースにも影響する。この馬がどの程度主張するかが、今年の展開を読む最初のポイントになる。
9.レッドモンレーヴら差し勢に展開は向くのか
前が速くなれば、当然ながら後方勢にもチャンスが生まれる。その代表格がレッドモンレーヴだ。
もともとは1400mから1600mを中心に実績を積み、2023年京王杯スプリングCを制覇。2024年の同レースでも上がり3F32秒2を記録して2着と、末脚の破壊力は以前から高く評価されていた。
そして今年の高松宮記念では、1200mへの適応力を示して2着。スプリントGⅠでも通用することを結果で証明した。
前走セントウルSは16着と大きく崩れたが、一戦だけで春の走りまで否定する必要はない。むしろ今回は、前半が速くなり前が苦しくなる形をどこまで引き寄せられるかがポイントになる。
ただし、中山の直線は短い。東京や中京のように、直線へ向いてからじっくり加速して全馬を差し切る競馬は難しい。4コーナーまでにどの位置まで押し上げられるかが重要になる。
スプリンターズSでは「末脚がある=差せる」とは限らない。前半の追走で脚を使わされず、しかも勝負どころで進路を確保する必要がある。レッドモンレーヴにとっては、展開と位置取りの両方が噛み合うかが最大の焦点だ。
10.一気の距離短縮組と伏兵勢にも警戒
今年は主役候補以外にも、簡単には切り捨てにくい馬が揃った。
ジューンブレアは昨年のスプリンターズS2着馬。今年の高松宮記念は17着と大敗したものの、今回は約半年ぶりの実戦で昨年好走した舞台へ戻る。昨年の結果を考えれば、中山1200mへの適性そのものを疑う必要はない。
エーティーマクフィは昨年の京阪杯勝ち馬。今年の函館スプリントSではピューロマジックの2着、前走キーンランドCでも4着。7歳ながら短距離重賞で安定して上位争いを続けており、展開ひとつで浮上する余地がある。
レイピアも函館スプリントS3着など、1200m戦で力をつけてきた存在。GⅠで一段上の相手にどこまで通用するかが試される。
アイサンサンは今年の愛知杯を逃げ切って重賞初制覇。前走ヴィクトリアマイルは13着だったが、今回は1600mから1200mへ一気に距離を縮める。1200mは未知でも、1400mで見せたスピードをどこまで生かせるか。
ワールズエンドも初の1200m。京王杯スプリングCを逃げ切り、安田記念でも2着した能力は明らかだが、今回は序盤から求められるスピードが大きく変わる。1200mへの対応が最大のテーマとなる。
さらにブラックチャリス、ペアポルックスも参戦。短距離戦は展開による着順変動が大きく、前が総崩れになるような流れなら人気薄にも入り込む余地が生まれる。
16頭の能力を単純に序列化するより、「どの馬がどの位置を取るのか」を考える方が、今年のスプリンターズSを読み解くうえでは重要になりそうだ。
11.今年のレースを読む3つのポイント
POINT 1 ピューロマジックと先行勢が作る前半
最大の分岐点は前半600m。速力のある馬が揃っているだけに、ポジション争いが長引けば消耗戦になりやすい。逆に隊列が早く決まれば、前残りの可能性も十分ある。
POINT 2 1200m未経験馬をどう見るか
スターアニス、ワールズエンド、アイサンサンなど、別カテゴリーから参戦する馬がいる。特にスターアニスはGⅠ2勝という絶対能力と54kgが魅力。一方でスプリント特有の追走速度は実戦で走ってみなければ分からない部分も残る。
POINT 3 歴代王者のコース適性を軽視しない
ウインカーネリアン、ルガル、ママコチャは実際にこのレースを勝っている。中山1200mは適性差が出やすい舞台だけに、近走の着順だけで評価するのは危険。経験値という意味では、新興勢力にない大きな武器を持っている。
12.まとめ――1分余りで決まる秋のスプリント王
今年のスプリンターズSには、ひとつの時代の境目を感じさせるメンバーが集まった。
ママコチャ、ルガル、ウインカーネリアン。過去3年の王者が揃って再び中山へ戻ってくる。
その一方で、フリッカージャブは3連勝で初のGⅠへ挑み、スターアニスは3歳牝馬として新しいカテゴリーへ踏み込む。パンジャタワーとサウンドモリアーナも、現在の短距離界を担う存在として頂点を狙う。
そして、その間にはピューロマジック、レッドモンレーヴ、ジューンブレア、ワールズエンドら、それぞれ異なる武器を持った実力馬がいる。
能力だけなら誰が勝っても不思議ではない。だから最後に重要になるのは、1200mのわずかな時間の中で「自分の競馬」ができるかどうかだ。
スタート直後の数完歩。最初の300mの位置取り。3コーナーから4コーナーへ向かう加速。直線でどこに進路を取るのか。そして急坂を越えたあと、最後の100mでもう一度脚を使えるのか。
長距離戦なら、ひとつの判断を修正する時間が残されていることもある。しかし1200mでは、一度の出遅れ、一度の位置取り、一度の進路選択が致命傷になる。
王者たちが、もう一度その強さを証明するのか。
それとも、新しいスプリント王が誕生するのか。
フリッカージャブの勢い。スターアニスの未知なるスプリント能力。パンジャタワーの総合力。サウンドモリアーナの成長。ピューロマジックのスピード。そして歴代覇者たちの経験。
それぞれの武器がぶつかる2026年のスプリンターズステークス。秋のGⅠシリーズは、中山芝1200mの濃密な1分余りから幕を開ける。
※出走馬・騎手・レース条件・過去成績等は2026年9月25日時点のJRA発表および公開競走成績をもとに構成しています。最終的な出走状況、馬場状態等は主催者発表をご確認ください。








