競馬コラム
走りが変わるのか
目次
- 「左回りなら走る馬」は本当にいるのか
- そもそも右回りと左回りは何が違うのか
- 競馬でよく聞く「手前」とは何なのか
- なぜコーナーでは決まった手前を使うのか
- 競走馬にも「右利き・左利き」はあるのか
- 馬の身体は完全な左右対称ではない
- コーナリング中、競走馬の身体では何が起きているのか
- 小回りと大回りでは「回り適性」の意味も変わる
- 直線での「手前替え」が勝負を分ける理由
- 手前を替えない馬、何度も替える馬
- 騎手はどうやって手前を替えさせるのか
- 調教で右回り・左回りへの対応は改善できるのか
- 「右回り巧者」「左回り巧者」を成績だけで判断する危険性
- 東京で走って中山で走らないのは本当に「左回り」が理由なのか
- 回り適性を馬券予想にどう生かせばいいのか
- まとめ|得意な回りは存在する。ただし理由は一つではない
第1章|「左回りなら走る馬」は本当にいるのか
競馬を長く見ていると、しばしば不思議な馬に出会う。東京や中京では何度も好走するのに、中山や阪神へ行くと本来の走りができない。逆に右回りでは安定しているのに、左回りへ替わった途端、コーナーでぎこちなくなったり、直線で思ったほど伸びなかったりする馬もいる。
競馬新聞や厩舎コメントでも「左回りの方がスムーズ」「右回りでは内へモタれる」「今回は得意の左回り」といった表現を見ることがある。それほど競馬の世界では、回る方向による得手不得手が一つの予想材料として扱われている。
では、本当に競走馬には「得意な回り」が存在するのだろうか。
結論から言えば、存在すると考えていい。ただし、ここで重要なのは、回り適性というものが「左回りが好き」「右回りが嫌い」という単純な話ではないということだ。
競走馬がコースを走る時、四本の脚をまったく同じように使っているわけではない。どちら側を先行させて走るかという「手前」があり、コーナーでは身体を内側へ傾けながらバランスを保つ。直線へ向けば再び身体の使い方を変え、疲労した側から反対側へ手前を替えることもある。
さらに一頭一頭、骨格、筋肉、柔軟性、首の使い方、走法などには違いがある。左右の使いやすさにも個体差があり、そこへコーナー半径、直線の長さ、坂、起伏、距離、ペース、枠順といったコース条件が重なる。
つまり、私たちが一言で「左回り巧者」「右回り巧者」と呼んでいる現象の裏側には、実はいくつもの要因が隠れているのである。
第2章|そもそも右回りと左回りは何が違うのか
競馬場を上から見れば違いは単純だ。時計回りに走るのが右回り、反時計回りに走るのが左回りである。しかし馬の立場から考えると、この違いは決して小さくない。
右回りならコーナーは右方向へ曲がり、左回りならその逆になる。競走馬は高速で走りながら何度もコーナーを通過するため、曲がる方向が変われば身体の使い方も変わる。
JRAの競馬場でも方向は統一されていない。東京、中京、新潟は左回り。札幌、函館、福島、中山、京都、阪神、小倉は右回りである。
ただし、ここで注意したいことがある。同じ左回り、同じ右回りでもコースはまったく同じではない。
例えば東京は大きなコーナーと長い直線を持つ。一方、中山は右回りで、内回りを使用する条件ではコーナーがタイトになりやすく、直線も短い。東京で走って中山で走らない馬がいたとしても、その原因が単純に「左と右の違い」とは限らない。
その馬は大きなコーナーを得意としているのかもしれない。長い直線でゆっくり加速するタイプかもしれない。あるいは中山の急坂や小回りで早めに動く競馬が苦手なのかもしれない。
回り適性を考える第一歩は、「回る方向」と「競馬場そのものの特徴」を分けて考えることである。
第3章|競馬でよく聞く「手前」とは何なのか
右回り・左回りを理解するうえで避けて通れないのが「手前」という言葉だ。
実況や調教解説などで「手前を替えた」「左手前のまま」「なかなか手前が替わらない」といった表現を聞いたことがある人も多いだろう。
馬が駈歩や襲歩で走る時には、左右どちらかの脚が先行する形になる。これが手前である。右側が先行する形を右手前、左側が先行する形を左手前と呼ぶ。
全力疾走している馬を見ると、四本の脚が猛烈な速さで動くため分かりにくい。しかし実際には脚を運ぶ順序があり、どちらの手前を使っているかによって身体の支え方が変化する。
そして重要なのが、同じ手前を長く使い続けると身体の同じ側へ負担が偏りやすいことだ。そのため馬はレースの途中で手前を替え、負担する側を変えながら走る。
コーナーでは曲がる方向に適した手前を使い、直線へ入ったところで反対の手前へ切り替える。これがスムーズにできる馬ほど、身体の力を効率良く使いやすい。
そして、この手前こそが「なぜ同じ馬なのに左回りと右回りで走りが変わるのか」を理解する重要な鍵なのである。
第4章|なぜコーナーでは決まった手前を使うのか
基本的に、右回りのコーナーでは右手前、左回りでは左手前を使うのが自然とされる。
高速で走る馬がカーブへ進入すると、身体には外側へ向かおうとする力が働く。そのままでは外へ膨らんでしまうため、馬は身体をカーブの内側へ傾け、四肢を使ってバランスを保ちながら旋回する。
この時、曲がる方向に合った手前を使うことで身体を自然に支えやすくなる。逆手前では身体の使い方と旋回方向が噛み合いにくくなり、外へ膨らんだり、スピードを落とさなければ曲がれなかったりする場合がある。
競馬では数メートルのロスが致命傷になる。コーナーで外へ膨らめば、それだけ余計な距離を走る。さらに騎手が修正するために手綱を使えば、馬自身のリズムまで崩れる可能性がある。
特に小回りでは影響が表れやすい。大きく緩やかなコーナーなら多少不器用でも勢いで対応できる馬が、タイトなコーナーになると急に走りづらくなることがある。
競馬で言われる「コーナリングが上手」「右回りではぎこちない」といった評価には、こうした手前と身体のバランスが関係しているのである。
第5章|競走馬にも「右利き・左利き」はあるのか
人間に右利き、左利きがあるように、馬にも左右の使いやすさには個体差がある。
ただし、人間の利き手とまったく同じ感覚で「この馬は右利きだから右回りが得意」と考えるのは危険だ。
競走馬はレース中、左右の手前を状況に応じて使い分けなければならない。仮に一方の手前を使うのが得意な馬でも、コースによっては反対側を使うことを求められる。
そこで差が生まれる。左右どちらでも自然に走れる馬もいれば、一方では身体をスムーズに使えるものの、反対側では少しぎこちなくなる馬もいる。
例えば左回りでは自然にコーナーを回れるのに、右回りでは外へ張ったり、逆に内へモタれたりする馬がいる。反対のケースも当然ある。
こうした癖がレースを重ねても繰り返される場合、「この馬は左回りの方がスムーズ」という評価に一定の根拠が生まれてくる。
第6章|馬の身体は完全な左右対称ではない
馬を正面から見れば、非常に左右対称な身体に見える。しかし実際の身体の使い方まで完全に左右同じというわけではない。
筋肉の発達、関節の柔軟性、首の使い方、身体を曲げやすい方向、重心の置き方などには個体差がある。成長過程や日々の運動、調教によっても左右差は生じる。
これは必ずしも異常という意味ではない。人間でも左右の筋力や柔軟性が完全に一致している人はほとんどいない。競走馬にも同様に「こちら側の方が身体を使いやすい」という傾向が存在する。
そして競馬では、そのわずかな左右差が高速域で表面化する。
ゆっくり歩いている時には問題にならない差でも、高速でコーナーへ進入すれば、身体を傾け、地面を強く蹴り、次の一歩へ移る動作を瞬時に繰り返さなければならない。
得意な方向なら自然にこなせる動作が、逆方向ではわずかに遅れる。その積み重ねがコーナーでの減速や距離ロスとなって表れることがある。
第7章|コーナリング中、競走馬の身体では何が起きているのか
競馬をテレビで見ていると、馬たちは何事もないようにコーナーを駆け抜けていく。しかし実際には、高速で走りながら曲がるという行為は身体に大きな負荷をかける。
直線では基本的に進行方向へ力を伝えればいい。ところがコーナーでは、前へ進む力に加えて身体を内側へ向ける必要がある。馬は身体全体を内側へ傾け、脚で地面を捉えながら旋回していく。
速度が高ければ高いほど、またカーブが急であるほど、旋回に必要な力は大きくなる。そのためタイトなコーナーを速いスピードで回る能力は、一種の運動能力と言っていい。
ここで身体の柔軟性やバランス感覚に差が出る。器用な馬はスピードを大きく落とさず、内ラチ沿いをコンパクトに回れる。一方、不器用な馬はコーナーでスピードを落としたり、外へ膨らんだりする。
さらに馬群の中では自由に走るラインを選べない。外側に別の馬がいれば膨らむことはできず、内側に馬がいれば進路を変える余裕もない。競走馬には、限られたスペースの中で身体を制御する能力が求められる。
だからこそ、小回りで器用に立ち回れる馬と、大きなコースで伸び伸び走った方がいい馬が存在するのである。
第8章|小回りと大回りでは「回り適性」の意味も変わる
「右回りが得意」「左回りが苦手」と判断する際、絶対に忘れてはいけないのがコーナーの大きさだ。
同じ右回りでも、競馬場によって求められる能力は違う。大きなコーナーならゆったり身体を傾けながら曲がれるが、小回りでは短時間で進行方向を変えなければならない。
大型馬やストライドの大きな馬は、広いコースで能力を発揮しやすいと言われることがある。もちろん大型馬すべてが小回りを苦手とするわけではないが、大きなフットワークを持つ馬にとって、タイトなコーナーでは本来のリズムを維持しにくいケースがある。
逆にピッチが速く、身体をコンパクトに使えるタイプは、小回りで器用に加速・減速しやすい。内を立ち回って距離ロスを抑えれば、それ自体が大きな武器になる。
つまり「右回りで成績が悪い」というデータだけを見ても、それが右回りそのものへの苦手意識なのか、過去に走った右回りコースの形状が合わなかったのかは分からない。
回り適性を分析するなら、「右か左か」だけではなく「大回りか小回りか」までセットで考える必要がある。
第9章|直線での「手前替え」が勝負を分ける理由
手前が重要なのはコーナーだけではない。むしろ競馬ファンが注目したいのは、最後の直線へ向いた瞬間だ。
コーナーで同じ手前を使い続けてきた馬は、その側に疲労が蓄積している。そこで直線へ向いたところで反対の手前へ切り替えると、これまでとは違う側を使って再び力強く走れることがある。
映像を注意深く見ると、直線へ入った馬が一瞬だけ身体のリズムを変え、その直後からグッと伸び始める場面がある。これが手前替えによる変化であることも多い。
逆に、手前を替えたいのになかなか替えられない馬もいる。同じ側を使い続ければ疲労が蓄積し、残り200mで脚色が鈍ることもある。
「直線で手前を替えたらもう一度伸びた」という騎手コメントがあるのはこのためだ。
そして回る方向が変われば、コーナーで使う手前と直線で替える手前の組み合わせも変わる。ある馬にとって、それが走りやすさの違いとして表れる可能性がある。
第10章|手前を替えない馬、何度も替える馬
すべての競走馬が教科書通りに手前を替えるわけではない。
直線へ入ってもなかなか手前を替えない馬もいれば、逆に何度も左右を切り替える馬もいる。これは馬の癖、疲労、バランス、走りづらさなどさまざまな要因によって起こる。
手前を替えないからといって、必ず能力が低いわけではない。非常に高い能力を持ち、一つの手前のまま押し切ってしまう馬もいる。しかし効率という観点では、適切なタイミングで左右を使い分けられる方が理想的だ。
一方、何度も手前を替える場合は、疲れて楽な側を探している可能性もある。単純に「何度も替えるから器用」と判断することもできない。
重要なのは、その馬自身の普段の走りと比較することだ。いつも直線ですぐ手前を替える馬が、あるレースだけ替えられない。あるいは普段はスムーズなのに特定の回りだけぎこちない。こうした違いに注目すると、回り適性が見えてくる。
着順だけでは分からない「走りの質」を見ることが、回り適性を判断する重要なポイントなのである。
第11章|騎手はどうやって手前を替えさせるのか
競走馬は自分自身で手前を替えることもあるが、騎手が合図を送って切り替えを促すこともできる。
騎手は手綱、脚、体重移動などを使いながら馬のバランスを変え、手前を替えるきっかけを与える。大きな動作ではないため、観客席やテレビ映像からは分かりにくいが、馬上では細かなコミュニケーションが行われている。
ただし、合図を出せば必ず替わるわけではない。馬が疲れていたり、身体のバランスが崩れていたり、そもそもその方向の手前を苦手としていたりすれば、思ったように反応しない場合もある。
また騎手は、ただ手前を替えさせればいいわけではない。馬群の中でバランスを崩せば接触する危険がある。コーナー出口で進路を確保しながら、馬が自然に手前を替えられる態勢を作る必要がある。
このあたりにも騎手の技術が表れる。馬の癖を知っている騎手なら「この馬は直線へ向いてすぐ促した方がいい」「少し待った方が自然に替わる」といった特徴を理解して騎乗できる。
回り適性は馬だけの問題ではなく、馬と騎手がどれだけスムーズに身体の使い方を合わせられるかという問題でもある。
第12章|調教で右回り・左回りへの対応は改善できるのか
では、右回りを苦手としている馬は、一生右回りが苦手なままなのだろうか。
必ずしもそうではない。競走馬は生まれた瞬間から完成された走り方を持っているわけではなく、育成や調教を通じてさまざまなことを学んでいく。
若馬の育成では、左右の手前を正しく使うことも教育の一つとなる。コーナーで適切な手前を使い、直線では必要に応じて反対へ替える。こうした基本動作を繰り返し覚えさせていく。
身体が成長することによって改善するケースもある。若い時期は筋力が不足していて一方向のコーナリングを苦手としていても、トモの筋肉が発達し、身体全体を支えられるようになることでスムーズになることがある。
また、騎手や調教師が癖を把握し、調教方法や馬具を工夫することで走りが改善される場合もある。
だから過去に一度右回りで凡走したからといって、「この馬は一生右回りでは買えない」と決めつけるべきではない。
競走馬は成長する生き物であり、回り適性も固定された数字ではない。年齢や経験とともに変化する可能性があることを覚えておきたい。
第13章|「右回り巧者」「左回り巧者」を成績だけで判断する危険性
競馬予想では、「左回り5戦3勝、右回り6戦0勝」といった数字を見ると、つい左回り巧者と判断したくなる。
しかし、この数字だけで結論を出すのは危険だ。
まず対戦相手の強さが違う可能性がある。左回りでは条件戦を走り、右回りでは重賞ばかり走っていれば、当然右回りの成績は悪くなる。
距離も重要だ。左回りでは得意な1600m、右回りでは適性外の2000mを走っていたなら、成績差の原因は回りではなく距離かもしれない。
馬場状態、枠順、展開、斤量、休み明け、馬体調なども結果へ影響する。競馬の着順は多くの変数が重なって決まるため、「右回り0勝」という一つの数字だけを切り取るのは危険なのである。
さらにサンプル数の問題もある。右回りを2回しか走っておらず、2回とも敗れているだけで「右回り0勝」と表示されることもある。2戦だけでは偶然の可能性を排除できない。
本当に回りが影響しているかを判断するなら、着順だけでなくレース映像、コーナリング、手前、騎手コメントなどを合わせて確認する必要がある。
第14章|東京で走って中山で走らないのは本当に「左回り」が理由なのか
回り適性を考える際、典型的な誤解が「東京で走る=左回り巧者」「中山で走る=右回り巧者」という考え方だ。
東京と中山では回る方向だけでなく、コースの性格そのものが大きく異なる。
東京は大きなコーナーと長い直線を持つため、ストライドを伸ばして末脚を発揮するタイプに向きやすい。中山は条件によって小回りの機動力が要求され、短い直線へ向けて早めにポジションを上げる必要があるレースも多い。
東京で末脚を爆発させる馬が中山で届かない場合、それは右回りが苦手なのではなく、直線が短いためにエンジンが掛かる前にレースが終わっているだけかもしれない。
反対に中山で強い馬が東京で伸び切れない場合も、左回りが苦手なのではなく、小回りで器用に立ち回るという長所が東京では生きにくいだけという可能性がある。
この問題を切り分ける一つの方法が、同じ回りの別競馬場を見ることだ。東京で好走して中京や新潟でも走るのであれば、左回り適性を疑う根拠は強くなる。東京だけ極端に成績が良いなら、東京というコースそのものへの適性かもしれない。
「競馬場適性」と「回り適性」を混同しないこと。これは馬券予想で非常に重要な考え方である。
第15章|回り適性を馬券予想にどう生かせばいいのか
ここまで理解すると、「では実際の馬券予想ではどう使えばいいのか」という疑問が出てくる。
最も大切なのは、回り適性を単独の予想ファクターとして扱わないことだ。
「左回りだから買い」「右回りだから消し」と機械的に判断するのではなく、能力、距離、馬場、展開、コース形態などを評価したうえで、最後の補正材料として使う方が実戦的である。
まず過去成績を見る。同じ方向で複数回好走しているかを確認する。ただし着順だけでなく、相手関係や距離も見る。
次に映像を見る。コーナーで外へ膨らんでいないか。頭を傾けていないか。騎手が必要以上に修正していないか。直線でスムーズに手前を替えているか。こうした動きは着順表には残らない重要な情報だ。
騎手や調教師のコメントも有効である。「左回りの方がスムーズ」「右へモタれる」「手前を替えなかった」といった具体的な発言が繰り返されているなら、単なる偶然ではない可能性が高まる。
さらに「今回の競馬場でその弱点がどれほど問題になるか」を考える。同じ苦手な右回りでも、大きなコーナーなら対応できるかもしれない。逆に得意な方向でも、タイトな小回りなら別の弱点が出る可能性がある。
① 同じ方向で好走・凡走を何度繰り返しているか
② コーナーで外へ膨らむ、内へモタれる癖がないか
③ 直線で手前をスムーズに替えられているか
④ 「回る方向」ではなくコース形態が原因ではないか
⑤ 騎手・調教師が回りや手前について何と話しているか
特に狙い目になるのは、着順だけを見れば評価を落とされそうだが、実は敗因が明確な馬である。
前走は苦手な方向でコーナーをうまく回れず敗戦。今回は過去に何度も好走している方向へ戻る。こうした条件替わりは、人気が下がっていれば馬券的にも面白い。
回り適性は万能な予想法ではない。しかし、他のファクターと組み合わせることで、数字だけでは見つけにくい「変わり身」を探す材料になり得るのである。
第16章|まとめ――得意な回りは存在する。ただし理由は一つではない
「競走馬に得意な回りは存在するのか?」
この問いへの答えは、「存在する。ただし、単純な右回り・左回りだけでは説明できない」となる。
競走馬はコーナーの方向に応じて手前を使い分け、身体を内側へ傾けながら高速で旋回する。左右の身体の使いやすさに個体差があれば、方向が変わった時に走りやすさが変化することは十分に考えられる。
しかし実際の競馬では、それだけではない。
大回りか小回りか。コーナーは緩いのか急なのか。直線は長いのか短いのか。坂はあるのか。どの位置からスパートするのか。そして、その馬自身がどのような走法を持っているのか。
これらすべてが重なって、最終的に「この馬は東京で走る」「中山では少しパフォーマンスが落ちる」といった結果として現れる。
だからこそ、過去成績に「左回り3勝、右回り0勝」と書かれているだけで結論を出してはいけない。その数字の裏側に何があったのかを見ることが重要だ。
コーナーで馬はどのように走っていたのか。外へ膨らんでいなかったか。騎手が修正していなかったか。直線で手前は替わったのか。同じ方向でも別の競馬場ではどうだったのか。
こうした視点を持ってレース映像を見るようになると、競馬は少し違って見えてくる。
これまで「伸びなかった」としか見えなかった馬が、実は直線で手前を替えられていなかったことに気づくかもしれない。「中山が苦手」だと思っていた馬が、実は右回りではなく小回りを苦手としていたことが分かるかもしれない。
そして次走、条件が変わった時に、その違いが馬券を考えるヒントになる。
競走馬にとって、右へ曲がることと左へ曲がることは、私たちが想像するほど単純な違いではない。
四本の脚を高速で動かし、身体を傾け、左右の手前を使い分けながら、わずかなロスも許されない競争をしている。その中で生まれる数センチ、数メートルの差が、最後には着順という形で現れる。
「得意な回り」は確かに存在する。
しかし本当に面白いのは、「左回りが得意」という答えそのものではない。
なぜ、その馬は左回りだと走りやすいのか。
その理由を探していくことこそが、競走馬というアスリートを理解し、競馬予想をさらに深く楽しむための一歩なのである。
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